1. Top
  2. 記事・動画
  3. インタビュー
  4. G-NETSのネットワークを活かした、ナイロビ市の洪水対策と都市間連携の意義

2025/07/11

G-NETSのネットワークを活かした、ナイロビ市の洪水対策と都市間連携の意義

ケニア・ナイロビ市の広報担当ディレクター、ベリル・アウル・オクンディ氏。2025年5月に東京で開催されたG-NETS第3回実務責任者級会議に出席

ケニア・ナイロビ市の広報担当ディレクター、ベリル・アウル・オクンディ氏。2025年5月に東京で開催されたG-NETS第3回実務責任者級会議に出席

気候変動は世界の都市が共通して抱える課題だ。気温上昇に伴い、ゲリラ豪雨など予測不能な天候に各都市が苦慮している。世界61都市が参加し、2025年5月7日〜9日に東京で開催されたG-NETS第3回実務責任者級会議でも、気候変動対策が主要な議題のひとつであった。

ケニアの首都ナイロビ市も他の都市と同様に気候変動の影響を受けているうえ、衛生関連施設の老朽化への対応も急務となっている。ナイロビ市の広報担当ディレクターであるベリル・アウル・オクンディ氏に、G-NETSで共有される知見をどのように活かし、課題解決に役立てているかを聞いた。

最先端のテクノロジーで公衆衛生を守る

ナイロビ市は2022年にG-NETSが立ち上がって以降、東京で開催される会議に欠かさず参加してきた。ナイロビ市も東京都と同様に河川を中心に発展した都市だ。19世紀から20世紀初頭にかけて東京がコレラなどの感染症に悩まされたように、ナイロビ市も水系感染症や洪水の課題に直面しており、気候変動によって事態はさらに悪化している。

第3回G-NETS実務責任者級会議に出席し、「ウェルビーイングの実現」セッションでモデレータを務めるオクンディ氏

第3回G-NETS実務責任者級会議に出席し、「ウェルビーイングの実現」セッションでモデレータを務めるオクンディ氏

「ナイロビでは長年使用している排水システムの老朽化が改善すべき課題です。雨が降ると洪水が発生しやすいからです。さらに気候変動によって雨季が短くなったり、季節外れの猛暑になったり、天候が予測しづらくなっています」とオクンディ氏は言う。

ナイロビ市の洪水の原因は豪雨だけではない。下水が適切に処理されずに氾濫したり、ゴミが排水路を塞いだりしていることも要因となっている。そこで、サカジャ・ジョンソン知事は応急処置として、若者を雇用して街をきれいにするプログラム「グリーンアーミー」を立ち上げた。約3500人が排水溝の清掃やごみの除去に取り組み、排水状況は改善されたものの、依然として洪水のリスクは残ったままだ。

2024年に開催されたSusHi Tech Tokyo 2024のリバースピッチイベントでは、ナイロビ市が抱える課題のプレゼンテーションが行われた

ナイロビ市は2024年、G-NETSワーキンググループ共同プロジェクトに参加。先端的なサービスを生み出す東京のスタートアップ企業の実証を支援する「キングサーモンプロジェクト」の海外都市課題解決コースの対象都市となった。リバースピッチによる課題のプレゼンテーションを経て、東京と名古屋に拠点を置くスタートアップ、SORA Technologyと連携し、2024年10月から2025年3月にかけて、ナイロビで洪水や水系感染症の発生リスクを予測する実証を行った。

SORA Technologyは、ドローンとAIを活用した環境・公衆衛生分野におけるリスク可視化ソリューションを開発するスタートアップだ。特に、気候変動に脆弱な感染症の評価・予測に強みを持ち、ドローンから取得されたデータの解析のみならず、気候データや地形情報、過去の感染状況を組み合わせたAI分析を通じて、洪水や感染症のリスクを迅速に予測、高リスク地域での早期警戒と医療物資の戦略的な事前配置を実現できるという。

書類審査を通過した5社からナイロビ市が最終的にSORA Technologyを選んだのは、同市の課題の解決に最も合致したサービスを提供していると考えたからだ。実証実施に当たっては、ケニア災害対策センターや気象局、ケニア医療研究所などとも連携。SORA Technologyは、降雨や台風で洪水が発生しやすい地域を特定・マッピングするシステムを構築した。

実証実施に向けた関係機関との意見交換

実証実施に向けた関係機関との意見交換

「SORA Technologyと協力することで、災害対策、とりわけ洪水時の安全確保に取り組む他の機関とも連携が取れるようになりました。雨が降るたびにナイロビでは深刻な問題が発生していますが、連携を強化することで洪水を防ぐ体制を少しずつ構築していきたいです」オクンディ氏は続ける。「今後も多くのスタートアップとの連携を進めていきたいです。都市の成長には、連携と協力が不可欠ですから。志を同じくする都市から学ぶ姿勢が必要です」

水系感染症対策のために医薬品の需要を予測するマップ(SORA Technology提供)

ケニア・ナイロビ水系感染症対策のために医薬品の需要を予測するマップ(SORA Technology提供)

世界の都市と連携してナイロビ市に変革をもたらす

東京都が何十年もかけてインフラを整備してきたように、ナイロビ市の課題解決にも時間がかかるとオクンディ氏は考えている。その間にも、観光都市としてのナイロビ市の魅力をアピールしていく計画だ。ナイロビ市にはアフリカで唯一都市に国立公園があり、「ビッグ5」と呼ばれるアフリカの5大動物のうちゾウを除く、ライオン、ヒョウ、サイ、バッファローを観察するサファリツアーを楽しむことができる。

オクンディ氏は第3回実務責任者級会議の「ウェルビーイングの実現:文化・スポーツの振興」セッションで、文化やスポーツはナイロビに暮らす人たち、とりわけ雇用機会が少ない若者の暮らし、あるいは都市そのものを変える力があると語った。「ナイロビはアフリカ有数の都市ですが、他の都市から学ぶことで、市民の暮らしを改善し、観光や発展する他都市との連携を強化することができます」とオクンディ氏。

ナイロビ市の洪水による被害状況などを現地調査して、実証地点を決定した

ナイロビ市の洪水による被害状況などを現地調査して、実証地点を決定した

オクンディ氏は今回の東京訪問で、東京のインフラと行政運営に関心を持ったという。東京都の職員との意見交換では、ナイロビ市の10の行政分野すべてに関わる課題が議論に上った。災害対策からスポーツ、文化、都市計画まで東京都とナイロビ市が共通の課題に取り組むなかで、さまざまな知見を共有できると考えている。

「東京は都市運営の理想的なモデルです。効率的で観光スポットも豊富、あらゆる要素が揃っています。でも、それは一朝一夕にできたものではありません。何年もかけて築かれたものです。ナイロビもいずれそのレベルに到達できると考えています」

またオクンディ氏は、都市課題解決の知見を共有するプラットフォームとしてのG-NETSを高く評価しており、東京都のリーダーシップに感謝の意を表した。「都市同士が互いに学び合い、成功事例を再現し、パートナーシップを築くことで、成長期にある都市にとって貴重な機会が生まれました。G-NETSは多くを学べる有意義な場となっています」

ベリル・アウル・オクンディ

ナイロビ市広報担当ディレクター

保険会社やPR会社などを経て2014年より現職。女性や子どものための権利擁護に取り組んでおり、アフリカ女性の権利ネットワーク(AfWHRiN)や女性活躍を支援するNPOイヌア・キケのアドバイザーも務めている。

資料