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2026/07/07

メガシティ共通の課題に挑むジャカルタ:洪水対策と資源循環

マルリナ・デウィ氏

インドネシア・ジャカルタ市地域国際協力局長のマルリナ・デウィ氏

国連が2025年11月に発表した報告書によると、インドネシアのジャカルタ圏が人口4190万人を擁する世界最大の都市圏となった。バングラデシュのダッカに次いで第3位に後退した東京を抜いた。この順位の変動は、ジャカルタが抱える環境と持続可能性の課題を改めて浮き彫りにしたといえる。

2026年4月27日〜29日に開催された第3回G-NETS首長級会議(アジア最大級のイノベーションカンファレンス「SusHi Tech Tokyo 2026」と同時開催)でも、こうした都市課題は大きなテーマとなり、各都市が課題解決策を共有する場となった。

ビッグドリアンが抱える大きな試練

「ビッグドリアン」の異名を持つジャカルタは今、深刻化する環境問題に直面している。市中心部に1000万人、都市圏に3000万人以上の人口を抱えるこの沿岸都市は、急速に地盤沈下が進む巨大都市の1つとして広く知られている。急速な都市化に伴う地下水の過剰な組み上げと、気候変動に起因する海面上昇がその主な原因だ。

ジャカルタ北部の大部分は、地盤がやわらかいデルタ地帯の上に築かれており、数十年にわたる帯水層からの揚水が地盤沈下を加速させている。地下水を汲み上げることで水圧が低下、地層が収縮して地面が沈んでいくのだ。2026年初頭にインドネシアのメディアは、同国の国立研究イノベーション庁(BRIN)の調査により、ジャカルタ北部では過去40年間で最大4メートル沈下した地域も確認されており、市全体の平均沈下速度は年間約3.5センチに及ぶと判明したと報じた。C40都市気候リーダーシップグループの2016年の調査によると、すでにジャカルタ北部の約40%が海抜0メートル以下に位置しており、2030年までにその割合は約90%に達すると予測されている。

世界の海面が年間約3ミリのペースで上昇するなか、頻発する洪水は深刻な問題となっている。モンスーン期の豪雨で河川や排水システムはたびたび氾濫し、高潮によって沿岸部の住宅地には海水が流れ込む。2021年のNASA(米航空宇宙局)のブログ記事によれば、1990年代以降、ジャカルタでは大規模洪水が繰り返し発生。2007年に起きた壊滅的な洪水では市内の約70%が浸水し、数万人の住民が避難を余儀なくされた。

第3回G-NETS首長級会議に参加したジャカルタ市地域国際協力局長のマルリナ・デウィ氏はこう語る。「13の河川を抱えるジャカルタは豪雨の頻発や高潮の影響によって、洪水リスクが非常に高い都市です」

身振り手振りを交えて話すデウィ氏

「G-NETSは地球規模の課題に対し、各都市の具体的な解決策に焦点を当てており、ジャカルタにとって非常に有益な経験となりました」と、デウィ氏は語る

洪水に備える大規模なインフラ整備計画が進行中

G-NETS首長級会議では、ジャカルタのプラモノ・アヌン首都特別州知事が「自然災害への対応」セッションに登壇し、具体的な洪水対策を紹介した。

アヌン知事はSusHi Tech Tokyo 2026 G-NETS首長級会議のコミュニケにこう記している。

「2035年までに、ジャカルタは上水道の100%普及を達成するとともに、未処理の排水を解消するため、ジャカルタ下水道システムを拡充する。キングサーモンプロジェクトの循環資源モデルを通じて、年間438トンの有機廃棄物を処理し、先進的な洪水対策インフラと持続可能な資源回収を統合することで、1100万人の住民の安全を確保する」

インドネシアでは首都をジャカルタからボルネオ島のヌサンタラへ移転する計画が進んでいるが、並行してジャカルタの環境問題にも対処すべく、政府は大規模なインフラ整備に取り組んでいる。悪化する沿岸洪水、地盤沈下、海面上昇からジャカルタを守るための大規模な取り組みが「首都圏沿岸統合開発計画(NCICD)」だ。「巨大防潮堤」プロジェクトとも称される同計画は、インドネシアとオランダ両政府の協力のもと2010年代初頭から推進され、治水、沿岸防御、水管理、都市開発を一体的に進めている。

計画の第1段階では、北部沿岸部の海岸や河川護岸の堤防強化・拡張に注力し、その後ジャカルタ湾沖合に大規模な洋上防潮堤と人工島を整備する予定だ。これにより、排水機能や水インフラの改善を図るとともに、高潮による洪水リスクを抑えて住民の安全を確保する。現在はジャカルタ北部を中心に、複数の防潮堤と沿岸防護施設の建設が進んでいる。

建設中の防波堤の鳥瞰

全長500キロに及ぶ巨大防潮堤を建設中(写真:ジャカルタ首都特別州)

一方、市が提供するアプリ「JAKI」(Jakarta Kini「今日のジャカルタ」の略)も洪水対策の重要なツールとなっている。都市計画を主導する部局ジャカルタ・スマート・シティが開発したアプリで、水位や浸水地域、気象情報、避難情報などをリアルタイムで提供するほか、市民が写真や位置情報を投稿して被害を報告できる機能も備える。これにより、当局はより迅速に対応することが可能となる。

JAKIアプリは洪水監視設備や排水ポンプ、行政機関のデータを一体化することで、頻発するモンスーン洪水の状況を市民がリアルタイムで把握できるようになった。行政側は市民が提供した情報を活用し、緊急対応の調整や部隊の派遣、交通管理に役立てている。防災力強化と行政と市民の情報共有の強化を目的とする、スマートシティ戦略の一環である。

「ジャカルタでは、事後対応から予防型へと災害マネジメントの転換を図っているところです。こうした取り組みを通じてより安全で、強靭で、現代的な都市となることを目指しています」とデウィ氏は言う。

循環経済に向け廃棄物を資源に再生

ジャカルタが取り組むもう1つの課題がごみ問題だ。この巨大都市では1日約7000トンの廃棄物が発生し、埋め立て地の負荷が増大している。廃棄物の削減に向け、市は各家庭にごみの分別を義務化。有機ごみ、プラスチック類などの無機ごみ、有害物質、リサイクルや堆肥化できない一般廃棄物の4つの区分で管理している。

さらに、東京都が推進する「キングサーモンプロジェクト『海外都市課題解決コース』」と連携。日本のスタートアップである株式会社フードリボンが、ジャカルタ最大のパサール・ジャヤ市場で実証実験を行い、市場で発生する有機・混合廃棄物から繊維やメタンガス、バイオ炭を生成する技術を検証した。廃棄物を削減するとともに、CO2排出削減、雇用創出、地域住民の環境意識の向上といった付加価値を付けることを目指した。

「実証を行なったのはジャカルタ最大の卸売市場で、ここでは大量の有機廃棄物が発生します」とデウィ氏は言う。「実証の結果、未利用の農業資源は繊維に、有機・混合廃棄物はメタンガスやバイオ炭などのエネルギーへと転換できることが確認されました。何より重要なのは、廃棄物が単に処理するものではなく、循環経済の一部となり得ることが示された点です」

デウィ氏にとってG-NETSの場は、共同事業について議論する場にとどまらず、都市間の持続的な連携を築く礎にもなった。

白や茶色の繊維の束

日本のスタートアップ、フードリボンがジャカルタの市場で発生する廃棄物から有用資源を生成する実証実験を行なった。繊維の抽出もその1つだ(写真:ジャカルタ首都特別州)

「G-NETSは極めて戦略的かつ効率的なプラットフォームであり、都市がグローバル課題に対して実効性ある解決策を示していることに光を当てています。ジャカルタにとっても非常に有益な経験となりました」とデウィ氏は言う。

デウィ氏によれば、他都市のリーダーや国際機関、民間企業との協業によって、ジャカルタは信頼できるパートナーとしての存在感を高めている。「G-NETS首長級会議は、都市間ネットワークの拡大に加え、新しい技術や革新的な解決策を取り込む機会にもつながっています」

壇上のスクリーンにジャカルタの資料とプラモノ・アヌン氏が映し出されている場面

第3回G-NETS首長級会議「レジリエンス」カテゴリーにおける「自然災害への対応」セッションには、ジャカルタ首都特別州知事のプラモノ・アヌン氏が登壇

デウィ氏は最後にこう締めくくった。「G-NETSならびに東京都の招待に感謝しています。そして実践的な協力や知見の共有、さらにはキングサーモンプロジェクトなどパイロット事業の推進を支援してくれたことにも感謝します。これらの取り組みは、ジャカルタが抱える都市課題の解決に直接つながっています」

マルリナ・デウィ氏

マルリナ・デウィ

インドネシア・ジャカルタ市地域国際協力局長

食料安全保障における都市間協力、民間セクターの役割強化、姉妹都市提携を含む国際協力に従事。2026年5月、CNNが選出するインドネシア・リーディング・ウーマン・アワード2026で「公共部門の協力と包摂的ガバナンスにおける卓越したリーダー賞」を受賞。

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