2026/06/18
食から建設まで、あらゆる分野の持続可能性を高めるスウェーデン・マルメ市の挑戦
2025年は、気温の観測記録が残る1850年以降で3番目に暑い年となった(2025年を上回ったのは2023年と2024年のみである)。気候危機が世界を見舞うなか、各都市は気候変動対策の目標を掲げ、脱炭素化という困難な課題に取り組んでいる。
こうした状況を背景に、2026年4月27日〜29日に世界55都市の首長が東京に集まり、「G-NETS第3回首長級会議」が開催された。アジア最大級のイノベーションカンファレンス「SusHi Tech Tokyo 2026」と同時開催されたこの会議は、都市共通の課題解決策を共有する場として機能している。
取り組みの主導は国家から都市へ
長年にわたりサステナビリティの推進に取り組んできたことで知られるのが、スウェーデン第3の都市で南西部に位置するマルメ市だ。人口36万8000人のこの都市は、オーレスン海峡を隔ててデンマークの首都コペンハーゲンと向かい合い、古くから国境の街として栄えてきた。
首長級会議に参加したマルメ市のビジネス・渉外担当局長ミカエル・ノルド氏は、同市が抱える課題をこう語る。
「私たちはスウェーデン最南端に位置し、デンマークはすぐ近い距離にあります。市内の取り組みにおいても、国外と協力するのは珍しいことではなく、デンマークのコペンハーゲンやドイツのハンブルクとは緊密に連携しています。ただし政策や財源の多くは国家レベルで決まるため、パートナー都市と協働する際には、別の解決策や財源を模索する必要があります。それが私たちの課題です」
ノルド氏が日本を訪れるのは今回で5度目。これまでG-NETSの実務責任者級会議には出席したことがあったが、首長級会議への参加は初めてとなる。首長級会議の印象と、「脱炭素推進」をテーマにしたセッションへの登壇について話を聞いた。
「首長級会議は素晴らしいですね。その理由はいくつかあります。まず、持続可能な開発を推進する役割から後退する国家が増えるなか、小池東京都知事と東京都が都市として力強いリーダーシップを示している点です。(国が動かないなら)都市が動く――その強い意志を東京都は体現しています」
「また、『SusHi Tech Tokyo』のようにイノベーションやスタートアップを重視し、官民が連携して取り組む姿勢を打ち出していることも、マルメ市にとっては大きな意味があります」
サステナビリティの取り組みを他都市と共有
「脱炭素推進」のセッションではノルド氏が登壇し、民間セクターとの協働事例を紹介した。そのひとつが、建設業界全体でのネットゼロを目指し、約200社が参加するイニシアチブ「LFM30(マルメ建設業気候中立のための2030年ローカルロードマップ)」だ。建設部門がスウェーデンの環境負荷の2割以上を占めるなか、2030年代半ばまでに2万8000戸以上の住宅建設を計画しているマルメ市は、建設部門で気候中立をめざすためのロードマップを策定。設計・施工、資材選定におけるライフサイクルアセスメントの導入や、気候中立な建築資材の採用、管理・運営・保守の最適化、建設現場と輸送の最適化などの戦略を盛り込んだ。
マルメ市の建設業界では、長期的利点を踏まえ、エネルギーを最適化するソリューションや環境に配慮した建材の採用が進んでいると、ノルド氏は言う。LFM30に参加する全ての建設業者は、設計や資材選定に際して機能性、循環性、二酸化炭素排出量の少なさを優先し、建築物の影響を最小限に抑えるよう取り組んでいる。
「LFM30イニシアチブは7年前に立ち上げられ、2030年までに建築・建設部門を完全に気候中立化することを目標としています。これは市と建設業界との共同事業ですが、民間セクターが主導し運営しているため、彼らが大きな責任を担っています。具体的には、不動産所有者、デベロッパー、建築家などが関わっています。」
もう一例としてノルド氏がセッションで紹介したのが、「マルメ・ジェネレート地区」だ。これは、民間セクター、学術機関、市民社会が連携してつくる、インパクト志向のイノベーション創出をめざすコミュニティである。ダンスケ銀行スタートアップ支援部門と、スタートアップ情報サービスのディールルーム社の調査によると、同国のスタートアップ投資の3分の1が、サステナビリティや気候変動に配慮したインパクトスタートアップに投じられている。すでに150以上のスタートアップや組織が同地区に拠点を置いている。
マルメ・ジェネレート地区は3つの機能で構成される。
1つ目が、情報共有のためのデジタルプラットフォームだ。知識・リソース・データが共通のプラットフォームに集約され、関係者が相互にオープンで効率的なイノベーションに参画できるようになっている。2つ目が、魅力ある物理的な環境だ。同地区には、オフィスや実証フィールド、研究室、交流スペース、イベントホールなどがそろう。そして3つ目が、マッチングによる機会創出だ。組織を超えて、新しいアイデアを生み出すべく交流会を提供している。
東京とのパートナーシップでイノベーションを加速
東京大学発のサステナビリティ系スタートアップfabulaは、マルメ市で活動する革新的な新興企業のひとつ。「ゴミから感動をつくる」というビジョンのもと2021年に創業した同社は、規格外の白菜や柑橘類の皮、コーヒーかすなどの食品廃棄物から強度の高い新素材を生み出す独自技術を有する。食品廃棄物を乾燥・粉砕し、金型で熱圧縮することで、コンクリート以上の強度を持つ新素材を作ることが可能なのだという。
fabulaは、都市の課題をグローバルに解決する東京都の施策「キングサーモンプロジェクト」の海外都市課題解決コースの一環として、マルメ市で実証実験に挑んだ。地元のカフェやオフィスからコーヒーかすを回収し、スウェーデン農業科学大学で加工、耐久性のある新素材を開発する取り組みだ。
都市に暮らす人々は食料を受動的に消費・輸入し、大量の廃棄物を生み出していると、ノルド氏は指摘する。つまり、膨大な未利用資源が眠っていることになる。マルメ市では食品廃棄物の活用と資源の循環を推進しており、廃棄物の削減、生産・管理の改善、食品廃棄物の再利用、残余廃棄物を活用した新製品の創出といった取り組みを行っている。
fabulaがアップサイクルした素材は地元企業2社がプロトタイプとして試験採用し、2026年3月にはその成果を披露するワークショップが開催された。可能性を秘めた同社の新素材に複数の地元企業が強い関心を寄せ、将来的な協力に向けた土台が築かれた。
「キングサーモンプロジェクトに参画できたことを大変嬉しく思います。率先してこのプロジェクトを立ち上げ、私たちを選んでくださった東京都に感謝します」とノルド氏は語る。「マルメ市ではここ数年、食品分野のサステナビリティがますます重要な焦点となっています。今回の取り組みは、まさにその活動に素晴らしい活力をもたらしてくれました。fabulaは食品廃棄物への取り組みにおける真のイノベーションと、新しく刺激的な手法を提示してくれました」
G-NETSは各都市のアイデアが集まる「ビュッフェ」
さまざまな分野でサステナビリティを推進してきたノルド氏は、G-NETSへの参加を振り返り、国境を越えて経験を共有し、共に地球温暖化に対処するのはとても意義があると強調した。
「G-NETSは、世界55都市が集まる場として最良のプラットフォームだと思います。なかにはまだ接点がない都市も多くあります。スウェーデン風に言えば、さまざまなアイデアや解決策が並ぶ『スモーガスボード(スウェーデン式ビュッフェ)』。自分たちとはかなり異なるように感じる都市からも、素晴らしいアイデアや知見を得ることができます。東京は私たちにとって優先的パートナーのひとつであり、G-NETSをはじめ様々な形で緊密な協力を継続していくことを楽しみにしています」
「マルメ市にとって、G-NETSがイノベーションとスタートアップに重点を置いていることは特に重要で、他の類似ネットワークと一線を画す点です。小池都知事の強い関与とリーダーシップも大きな特徴です。彼女の精神はG-NETSの中に確かに息づいており、それがG-NETSの成功の決定的な要因となっています」
ミカエル・ノルド
スウェーデン・マルメ市ビジネス・渉外担当局長
ビジネス、雇用、観光、移住、コミュニティ政策、渉外などを担う。マルメ市および周辺地域における持続可能で包括的な成長の実現に向けた環境整備を推進している。