1. Top
  2. 記事・動画
  3. ケーススタディ
  4. 東京都の洪水対策:都市型水害から街を守る、全長13キロの巨大地下トンネル

2025/03/31

東京都の洪水対策:都市型水害から街を守る、全長13キロの巨大地下トンネル

トンネルの写真

内径約10メートルのトンネルが続く白子川地下調節池

東京都は河川の氾濫を防ぐ施設の建設など、都市型水害対策に力を入れている。なかでも重要なのが、白子川地下調節池と環状七号線地下広域調節池(石神井川区間)をトンネル式調節池で結ぶ総延長13キロのプロジェクトだ。この調節池が完成すれば、143万立方メートルの貯留量を確保することが可能となり、東京湾への放水計画も検討されている。

東京都の水害対策

2000年以降、世界各地で集中豪雨や洪水の頻度が大幅に増加している。2023年のマレーシアの豪雨では6州で甚大な洪水が発生。2024年には欧州各地が集中豪雨に見舞われるなど、都市部での水害も珍しくない。日本でも豪雨は増加しており、1時間100ミリを超える降水量は、1976年〜85年と2013年〜22年の平均年間発生件数を比較すると、約2倍に増加している。東京都は、1999年の局地的集中豪雨で大きな被害が発生したことを受け、都市型水害対策の取り組みを強化し始めた。

東京の水害の歴史

東京は水の都だ。100を超える河川が都内を流れ、そのうち92の河川は国土保全や経済上重要な1級河川に指定されている。東京はこれまでの歴史の中で、経済や住民の暮らしに深刻な打撃を与える水害を何度も経験してきた。

1958年の台風22号では1時間に76ミリ近い雨が降り、東京は第二次大戦以降で最も甚大な被害に見舞われた。2005年9月4日〜5日にかけて都心を襲った局地豪雨では、1時間に100ミリを超える雨量を記録。総雨量は263ミリに達し、都内で5,827棟に浸水被害が発生した。2019年には台風19号が記録的な豪雨をもたらし、都が管理する7つの河川が堤防を超えてあふれ、うち4河川で河岸が崩壊した。その影響で約1,300棟が浸水し、多くの住民が被害を受けた。このように、水害の頻発と激甚化は東京が都市型水害の脅威に対し、さまざまな対策の必要性を浮き彫りにすることとなった。

東京都が取り組む「都市型水害」対策

東京都の都市型水害対策はおよそ2つに分類される。ひとつは河道の改修、もうひとつは調節池や分水路など流域の整備だ。それぞれにメリットがある一方、課題もある。

河道の改修では、川幅の拡張や護岸の補強、川床掘削による水位の低下などを行う。こうした対策が河岸崩壊のリスクを下げ、流水量を増やし、周辺地域への越流のリスクを軽減する。しかし対策の実現には、市街地における用地の確保、橋などの重要な河川施設の改修や移設といった課題がある。工事期間中は、交通ルートや資材の保管場所の確保、住民の暮らしや仕事への影響を抑えるといった点にも留意する必要がある。

比丘尼橋下流調節池の写真

白子川沿いに整備された比丘尼橋下流調節池

こうした課題に対処する方法として、東京都では道路や公園といった公共地の地下を活用した調節池の整備を進めている。

調節池には堀込式、地下箱式、地下トンネル式の3つの方式があり、いずれも豪雨の際に増水した水を一時的に貯留、水位が下がったら川に放流することで、河川の氾濫を防ぐ役割を果たしている。河道は1時間50ミリまでの降雨量に対応できるよう改修を進めており、1時間50ミリを超える雨量に対しては調節池の建設といった洪水対策が行われている。

東京都の水害対策の鍵を握る「白子川プロジェクト」

白子川の流域には現在、比丘尼上流調節池(1985年完成)、比丘尼橋下流調節池(2002年完成)、白子川地下調節池(2017年完成)の3つの主要な調節池がある。白子川地下調節池と比丘尼橋下流調節池の貯留量はそれぞれ21万2,000立方メートル、丘尼橋上流調節池の貯水量は3万4,400立方メートルだ。 

白子川地下調節池は、環状七号線地下広域調節池(石神井川区間)をトンネル式調節池で結ぶ総延長13キロのプロジェクトの一部で、完成すれば白子川、石神井川、神田川という東京の主要な3水路とつながり、増水した河川の水143万立方メートルを貯留できるようになる。東京都心で1時間75ミリを超える大雨や、1時間あたり100ミリの局地的な豪雨に効果的で、洪水リスクの大幅な軽減につながることが期待される。

こうした対策が水害の軽減に有効であることはデータが証明している。たとえば、調節池が整備される前の1982年の台風18号では、白子川流域で1時間当たり65ミリの豪雨となり、55.2ヘクタールが浸水、621棟が浸水被害を受けた。一方、2005年の集中豪雨では、白子川流域で1時間の最大雨量が80ミリを記録したが、浸水面積は0.7ヘクタール、建物の浸水被害は77棟にとどまった。

考察

人口が過密する都会では、水害対策を実施するにあたって様々な課題がある。そのひとつが、治水に利用できる公有地が限られていること。都が地下調節池の活用を推進しているのはそのためで、白子川地下調節池と神田川・環状七号線地下調節池を連結する事業が進んでいる。

世界の他の主要都市も、都市型水害におけるさまざまな課題に対して革新的な対応策を打ち出している。たとえば、商業の中心地での洪水が増加しているマレーシアの首都クアラルンプールでは、洪水管理と道路の渋滞対策を兼ねたトンネル「SMART(Stormwater Management and Road Tunnel)」を導入。貯水池や放水路、調節池を利用し、洪水が発生しやすい地域の雨水をトンネル内の水路に排水するシステムで、豪雨の時以外は自動車が通行する普通のトンネルとなるという2つの機能を兼ねている。世界的な集中豪雨の増加により都市型水害のリスクが高まる中、市民の安全を守るには、都市間で連携し、技術や貴重なデータ、情報を共有していくことが望まれる。

カルーセルの写真1

白子川地下調節池の内部

カルーセルの写真2

白子川地下調節池の壁には、雨水がいっぱいになった際の跡が残っている

カルーセルの写真3

白子川地下調節池では2つのポンプで排水を調節している

カルーセルの写真4

比丘尼橋下流調節池は左側のフェンスを隔てて白子川に隣接している

カルーセルの写真7

比丘尼橋下流調節池の内部。流入した雨水はポンプで排水される

カルーセルの写真8

比丘尼橋下流調節池の内部

参考