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2025/06/27

世界の都市とともに学び・創る、ヘルシンキ市のサステナブルな未来

今年5月に東京を訪れたヘルシンキ市の、ラウラ・ウットゥ・デシュキヴェール 氏(左)とキンモ・ヘイノネン氏(右)

今年5月に東京を訪れたヘルシンキ市の、ラウラ・ウットゥ・デシュキヴェール 氏(左)とキンモ・ヘイノネン氏(右)

現在、世界中の都市が、気候変動対策の目標達成に向けてさらなる脱炭素化を求められている。そうした中、2025年5月に3回目となるG-NETS実務責任者会議が東京で開催された。会議には世界61都市が参加し、各都市の実務責任者が都市課題解決に向け、施策や知見を共有した。

2022年にG-NETSが立ち上がって以来、継続的にG-NETSの各事業に参画している都市の一つが、フィンランドの首都ヘルシンキ市だ。同市は、2030年までのカーボンニュートラル実現を目指し、暖房用エネルギーのグリーン化など環境政策を積極的に推進している。さらに近年、市内にある複数の石炭火力発電所の閉鎖を決定し、CO2排出量を約43%削減できる見込みとなっている。同市の職員二人に、G-NETSプラットフォームにおいて知見を共有するメリットなどについて話を伺った。

G-NETSが示す都市連携の新たな形

これまで数々の国際的な都市間ネットワークに参加してきたヘルシンキ市だが、「中でもG-NETSには大きく三つのメリットがある」と語るのは、国際関係部長のラウラ・ウットゥ・デシュキヴェール氏だ。

まず一つ目が、グローバルな意見交換の場であるということ。ヘルシンキにとってG-NETSは、欧州域外のグローバル都市とつながり、世界中の知見に触れる貴重な機会だという。二つ目にホストである東京都とこれまで以上に友好・協力関係を深められたこと。そして三つ目が首長、実務責任者、実務担当者とそれぞれの異なる立場で情報交換ができる点だ。

「私の知る限り、G-NETSのように三つ異なる階層の会合からなるグローバルネットワークは、ほかに例がありません」と話すウットゥ・デシュキヴェール氏。「首長、実務責任者、実務担当者の各層にはそれぞれ異なる知識が蓄積されているはずです。だからこそ、同じ課題を抱える人々同士がつながり、学び合い、グローバルに解決策を模索するといったG-NETSならではのアプローチが効果的です。世界中の都市が同じ課題に直面する今、こうした連携が何より重要なのです」。

第3回G-NETS実務責任者会議の「ウェルビーイングの実現」セッションで、デジタル技術をテーマに発表するヘルシンキ市の担当者

第3回G-NETS実務責任者会議の「ウェルビーイングの実現」セッションで、デジタル技術をテーマに発表するウットゥ・デシュキヴェール氏

ヘルシンキが描く住民中心の都市づくり

第3回実務責任者級会議で、ウットゥ・デシュキヴェール氏が参加したセッションの一つが「ウェルビーイングの実現」。同セッションではヘルシンキ市をはじめ、各都市の実務責任者が住民の生活向上に向けた先進的な取組について発表した。現在ヘルシンキ市では、行政サービスのデジタル化に注力しており、市民がいつでもどこでも利用できる環境整備を進めている。

例えば、若者のレジャー(余暇)活動を促すために導入したアプリは、一定の成果を上げている。加えて、日本と同様に高齢化が進む中、ヘルシンキ市は高齢者支援にもデジタル技術を積極的に取り入れている。ウットゥ・デシュキヴェール氏によれば、高齢者が施設に頼らず、できるだけ自宅で暮らし続けられるよう、デジタルサービスによる支援を行っているという。今回の実務責任者級会議で交わされた議論の中でも「高齢者に対する行政サービスのあり方」については、ヘルシンキ市がまさに直面する課題だけに、ウットゥ・デシュキヴェール氏にとっても強く印象に残ったそうだ。

ヘルシンキ市は他にも、サーキュラーエコノミーやエネルギー効率、エドテック(EdTech, Educational Technology)、都市づくり、健康・ウェルビーング、スマートモビリティなど、幅広い分野に取り組んできた。加えてスタートアップ企業との連携にも力を入れており、クリーンで持続可能な都市づくりを目指すベンチャーを支援する「アーバンテックヘルシンキ(Urban Tech Helsinki)」などのプログラムも展開している。

スタートアップとともに課題解決へ

2024年、ヘルシンキ市はG-NETSワーキンググループ共同プロジェクトに参加し、海外都市を実証の舞台として、都内スタートアップ企業の海外進出を支援する「キングサーモンプロジェクト(海外都市課題解決コース)」の対象となった。同プロジェクトで採択された都内スタートアップによる実証は、2024年12月から2025年3月にかけてヘルシンキ市内で行われた。採択されたのは、太陽光発電の研究をベースに、屋内や光の少ない環境でもエネルギーを創出できる光発電素子を開発したinQs株式会社だ。

inQsが提案したのは、熱の光源から電力の回収が可能な遮熱、断熱及びエネルギーハーべスティング性の光発電ガラスである。実証は、このガラスをヘルシンキ市が所有するスタートアップ施設の窓に設置して行われた。また実証期間中には、inQs関係者と現地のベンチャーキャピタリストやヘルシンキ大学の研究者との交流の場も設けられ、同社にとって今後の成長の足がかりを築く機会にもなった。

ヘルシンキで行われた実証の様子

実証の様子(2024年)

「知識集約型のスタートアップのアイデアが、実社会の課題解決につながることは少なくありません」と話すのは、ヘルシンキ市の経済開発部イノベーションサービスチームを率いるキンモ・ヘイノネン氏だ。「市として、スタートアップには市や市民が直面する実際の課題への解決策を示してもらえるよう呼び掛けています」。

へイノネン氏は、新製品や新規サービスを実環境で検証するプログラム「テストベッドヘルシンキ(Testbed Helsinki)」の責任者も務めている。

昨年開催されたSusHi Tech Tokyo 2024のリバースピッチイベントで、ヘルシンキ市の課題を発表するへイノネン氏

都市の連携が未来を拓く大きな一歩に

ウットゥ・デシュキヴェール氏は、環境に配慮した循環型社会の構築や、ヘルシンキ市が掲げるカーボンニュートラルの目標にも触れ、暖房セクターではCO2削減対策が奏功している一方で、交通セクターの脱炭素化は「より複雑な課題になる」との見方を示した。

重要なのは、低炭素の公共交通への転換と自家用車の利用とのバランスであり、これは政治的な議論の的にもなっているという。こうした難題こそ、G-NETSのようなネットワークを通じて得られるより深い知見が、政策決定者たちの取組を後押しするだろう。

「G-NETSを通じた国際的な都市間連携はもちろん、東京都との二都市間協力にも引き続き取り組んでいきたい」と語るウットゥ・デシュキヴェール氏。「東京都とヘルシンキ市は価値観や考え方が近いため、幅広い分野で協力できると思います。高齢化や持続可能な都市づくりなど共通の課題も多く、さまざまな形で連携できるはず。私たちヘルシンキ市はいつでもその準備ができています。G-NETSという素晴らしいネットワークを築いてくださった東京都には、心から感謝しています」

ラウラ・ウットゥ・デシュキヴェール

ヘルシンキ市 国際関係部長

アーンスト・アンド・ヤングにてアシスタントディレクター、マーケティングマネジャー、プロジェクトマネジャー、ヘルシンキ・ビジネス・ハブでマーケティング・コミュニケーションディレクターなどを歴任したのち、ヘルシンキ市戦略部プロジェクトディレクターを経て、2021年より現職。

キンモ・ヘイノネン

ヘルシンキ市 執行局 経済開発部イノベーションサービス チームリーダー

フィンランド労働省の欧州ソーシャルファンドコーディネーター、地域開発を手掛けるコーミナータム・イノベーション社にて開発マネージャーを務めたのち、2010年より現職。

資料