1. Top
  2. 記事・動画
  3. ケーススタディ
  4. 環境施策の推進
  5. 東京都の廃棄物処理施策:東京港内最後の埋立処分場の延命化と環境負荷の低減

2025/03/31

東京都の廃棄物処理施策:東京港内最後の埋立処分場の延命化と環境負荷の低減

東京港内の中央防波堤外側埋立処分場は199ヘクタール。1977年以降、現在も使用されている。

大都市と廃棄物管理は切っても切れない関係にある。現在、世界各国で主流の廃棄物処理方法は「埋立て(36.7%)」、「オープンダンプ(開放投棄)(33%)」、「リサイクル(13%)」*1 で、どの処理方法を行う都市も処分場の運用やごみの再資源化に課題を抱えている。中でも急激な人口増加に直面しているジャカルタ *2 やダッカなどアジアの大都市では、廃棄物量が増加する一方で中間処理やリサイクルを行う施設を設立・運営する資金や技術、人員が不足している。そのため、十分な分別が行われないまま埋立てが行われるなど、廃棄物による環境汚染やリサイクル率の低さに直面しているようだ。*3

東京都では廃棄物処理の方法として、「自治体と協力した分別」「中間処理施設での焼却・破砕」「最終処分場への埋立て」を行う。2024年現在使用されている最終処分場は、一般的に「東京都廃棄物埋立処分場」と総称され、東京23区で発生する廃棄物を受け入れている。中央防波堤の北側の埋立地は「中央防波堤内側埋立地」と、南側は「中央防波堤外側埋立処分場」及び「新海面処分場」と呼ばれ、新海面処分場は東京港内で使用できる最後の埋立処分場である。東京都にとって、この限られた処分場をできる限り長く使うことは廃棄物管理の観点から喫緊の課題だ。

廃棄物埋立処分場全景(2024年2月3日撮影 提供:東京都環境局)

東京における廃棄物埋立て

東京では明治中期ごろから都市人口が増えたことでごみの量が増加、その処理や衛生環境の悪化に大きな課題を抱えていた。東京におけるごみの埋立ては内陸埋立ても行われていたが、やがて用地確保が難しくなり、20世紀後半は海面埋立てが主流となっていった。

そのような中で1957年には「夢の島(江東区潮見14号地)」でのごみの埋立てが始まったが、生ごみなどをそのまま埋立てていたことからハエやネズミが大量発生し、社会問題となった。

現在使用されている中央防波堤外側埋立処分場の埋立てが1977年に始まると、ごみの量に対する処分場の不足が認識されるようになった。埋立量を減らし処分場を延命化することが都政の重要課題となり、清掃工場や粗大ごみ破砕処理施設など中間処理施設の建設が急速に進められた。

分別と中間処理の徹底で埋立処分場の使用可能年数を伸ばす

埋立処分場を延命させるために東京が継続的に行ってきた取組みが、廃棄物の徹底した分別と破砕や焼却を行う中間処理だ。

なかでも中間処理施設は、東京都23区が中間処理を共同で行うために設立した「東京二十三区清掃一部事務組合」が運営している。可燃ごみについては清掃工場で環境に配慮しながら焼却処理し(この際、廃棄物の量はもとの量の約20分の1になる)、不燃ごみ・粗大ごみはそれぞれの処理施設で破砕、鉄などの資源を回収したうえで、埋立処分場に運搬される。分別・収集を行う区、中間処理施設を運営する東京二十三区清掃一部事務組合、最終処分場を運営する東京都が、それぞれの立場で3R(リデュース・リユース・リサイクル)を念頭に廃棄物処理を協力して行っている。

環境に配慮した廃棄物の埋立て

最終処分場へ運び込まれた廃棄物の埋立方法にも、環境へ配慮するための工夫がある廃棄物は種類ごとに場所を定め廃棄物層3メートルごとに50センチメートルの覆土をし、高さ30メートルになるまで積み重ねられる「サンドイッチ工法」で埋立てられる。廃棄物と土とを交互に重ねることで、ごみの飛散や悪臭、害虫の発生、火災の発生を防ぎ、衛生的に埋め立てを行うことができる。 

中央防波堤外側埋立処分場にある、サンドイッチ工法による埋立地の断面

ごみから発生するガスも有効に使われている。過去に燃やさずにそのまま埋立処分されたごみからは、有機物が微生物によって分解される過程で、今でも二酸化炭素の25倍もの温暖化効果のあるメタンガスが発生している。敷地内のガス有効利用施設では、発生したメタンガスを集めて燃焼させるバイオマス発電を行い、その電力を東京都廃棄物埋立処分場の消費電力の一部(約10%)に充てている。

G-NETSに参加する海外都市の職員が視察に訪れたガス有効利用施設(2024年11月)

浸出水による海域汚染の防止

埋立後の環境保全対策も重要だ。大きなターニングポイントとなったのは、1972年に改正された「廃棄物処理法」だ。この改正によって、埋立処分場から出る浸出水への対策が必須となった。

浸出水とは、処分場に降った雨水が埋立てられたごみの層を通ることで有機性汚濁物質を含んだ汚水のことで、そのまま海に流すと埋立地の周囲の汚染につながる。浸出水によつ環境汚染を防ぐため、浸出水処理施設の設置が法で義務付けられている。浸出水の処理も慎重に行われている。まず、浸出水は集水池に集められたのち、調節池で水質を均一化、排水処理場で下水排除基準内に処理されてから下水道施設に送られる。周辺への汚水の漏えいがないか、埋立処分場の外周護岸の観察・記録も行われている。

浸出水への対策を行う排水処理施設(提供:東京都環境局)

 考察と課題

2023年度に東京都廃棄物埋立処分場で埋立処分されたごみの量は年間約26万トン、1日あたり約830トンだ。東京都の埋立処分量はごみの減量化や再資源化の推進により年々減少傾向にある。このような成果に海外都市からの関心も高く、2024年11月に行われたG-NETSワーキンググループ共同プロジェクトの技術交流では、世界7都市の職員が埋立処分場やリサイクル施設の視察に訪れた。

しかし、東京都は2030年までの目標としているリサイクル率37%に対して、2024年時点のリサイクル率は25.6%に留まっており、将来的な処分場不足の解決には至っていない。さらなるごみの減量化、再資源化に取り組む必要がある点では、海外都市とも共通する課題を抱えている。

視察に参加したクアラルンプール市の職員は「住民にリサイクルを呼びかけているが、依然としてリサイクル率は10%以下。食品の廃棄率が約半分をしめるクアラルンプールは、東京都の食品ごみ処理の技術に学ぶところがある」とコメント。ブエノスアイレス市の職員は「アルゼンチンでは、ごみ処理やその活用に関して、州政府と民間企業の足並みが揃わないケースも多い。東京都の民間企業との協業体制が興味深い」と話していた。

東京臨海部に位置するリサイクル施設の集積地スーパーエコタウンの施設で説明を受ける、G-NETSの視察に参加した海外都市の職員(2024年11月)

「混ざったままだとゴミだが、分ければ資源になる」。視察団を案内した東京都環境局の職員は海外の職員にそう語った。海外都市とも知見を共有しながら、限りある処分場のさらなる延命のためには、民間企業との協業を促進しリサイクル率を一層向上させることが求められる。スタートアップによる新技術、他都市とのノウハウ共有を通した問題解決など、今後も多岐にわたるアプローチで課題解決に向けて挑戦していく。

          

*1 World Bank What a Waste 2.0: A Global Snapshot of Solid Waste Management to 2050
*2 経済産業省 アジア型循環経済モデルに関する調査事業 2021
*3 JETROアジア大洋州主要国のサーキュラーエコノミー実態調査 2024

          

参考