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2025/03/18

ニューヨーク市環境保護局長に聞く、堅牢な水管理への取り組み

昨年11月、東京都水道局と下水道局の職員10名がニューヨーク市環境保護局を訪問。ニューヨーク市の水管理についての知見を深めた。ニューヨーク市環境保護局長のロヒト・アガールワラ氏が同市の水管理政策と、G-NETS参加都市との取り組みに参画する意義について語った。

ニューヨーク市環境保護局のロヒト・アガールワラ局長

ニューヨーク市環境保護局のロヒト・アガールワラ局長。(写真:ニューヨーク市環境保護局)

水は私たちにとって極めて重要な資源だ。清潔で安全な水の安定供給の確保においては、水管理当局に依存している。しかし私たちは、水をめぐる課題についてどれほど認識しているだろうか。市民からの信頼の維持、人口増に呼応するインフラ整備、産業廃棄物の効率的で安全な処理、暴風雨や干ばつなど気候変動への適応——東京のような大都市は都市部の水管理システム上のさまざまな課題を抱えている。

ニューヨーク市が築いてきた市民との信頼関係

ニューヨーク市は1842年に最初の水道システムが完成して以来、都市のインフラ投資に関する先導的存在となってきた。継続的に拡張や改良を重ね、水道システムは同市の素晴らしい資産の一つとなっている。同市の飲料水は、200キロ以上北にあるキャッツキル山地の19の貯水池を水源としている。

ニューヨーク市環境保護局が重要視しているのは顧客との信頼関係だ。「水道システムは市民が市政を高く評価する一面になっていると考えています。その信頼関係をさらに上積みすべく取り組んでいます」と局長のアガールワラ氏は語る。

「時に水道管が壊れることがあるのは確かですが、故障が直るまで作業員が現場から出ることはありません。天候に関係なく、夜を徹して修理をし、水が出ることを確認するまで作業を続けます。市民はその仕事ぶりに感謝しています」また市がこの30年間に数百億ドルを投じて港湾の浄化を推進したことも、市民にとっては恩恵となっている。排水処理は改善し、合流式下水道があふれることも減少した。

「私が子どもの頃、ニューヨーク港はまだかなり汚れていましたが、今は驚くほどきれいになりました。毎年クジラやイルカ、タツノオトシゴまでもが港にやってきます」とアガールワラ氏は言う。

「環境汚染の軽減という点ではかなりの成果を上げたといえるでしょう。タツノオトシゴはその指標となる魚であり、その存在はきれいな水が維持されている証になります」

1967年に設立されたニュータウン・クリーク下水処理場

1967年に設立されたニュータウンクリーク廃水資源回収施設では、100万戸以上の一般家庭から排出された汚水を処理している。(写真:ニューヨーク市環境保護局)

気候変動がもたらす挑戦

アガールワラ氏によれば、気候変動によって様々な影響があるものの、アメリカ北東部では長期的傾向として干ばつよりも降雨量の増加が見られる。ニューヨークは幸運なことに、ヨーロッパの一部やアメリカ西部と異なり、長期的な干ばつのリスクには直面していない。ただ時折干ばつは発生している。2024年10月には記録的な乾燥となり、マンハッタンの小さな公園で森林火災が発生した。誰も予期していなかったことだった。

一方、豪雨による洪水には幾度も見舞われている。記録的な5回の豪雨のうち4回は過去3年間に起きている。

「最悪だったのは2021年9月1日のハリケーン・アイダです。それまでの最大降雨量の2倍に達する豪雨となり、残念なことに13人が犠牲となりました。その多くがアパートの地下室での溺死でした。夜間に発生したため、多くの犠牲者は自宅で就寝中だったのです」

こうした課題に対処するため、ニューヨーク市は水管理への投資を行い、様々な施策を実施してきた。グリーンインフラストラクチャーを早くから採用したのもその一環だ。グリーンインフラストラクチャーとは、自然の水循環の機能を維持・回復し、模倣することによって、人々の安心安全な暮らしを守る水管理のアプローチである。

降雨時に雨水を貯留し地下へ浸透させるレインガーデン

降雨時に雨水を貯留し地下へ浸透させるレインガーデンは、ニューヨーク市のグリーンインフラストラクチャーの一例だ。(写真:ニューヨーク市環境保護局)

自然との調和を目指す

こうした取り組みの一つが、屋根や車道、歩道から雨水を集め、地面に浸透させるレインガーデンだ。

「雨水を浸透貯留する機能をもつレインガーデンを2010年代始めから活用しています。毎年約1000か所のレインガーデンを整備し、今では市全域に1万3000か所あります」「私たちが採用したさらなる戦略は、雨水の排水管を湖や川などにつなぎ、自然の水域を貯水池として利用することです。これを「ブルーベルトシステム」と呼んでいます」と、アガールワラ氏は続ける。

また小川を覆う障害物を取り除く「デイライティング」プロジェクトでは、ブロンクスで地下暗渠に埋もれていた小川を復活させた。自然な状態に戻った小川の雨水管理能力は大幅に向上した。露出した水域は雨水を自然に調整できるため、このアプローチは環境管理の強力な手段になると局長は語る。ニューヨーク市では現在、市の公園局と協力し公園内にある適切な水域を定め、住宅地など建物の密集した地域にもこの方法を採用している。

G-NETSワーキンググループの共同プロジェクトの技術交流の一環で、2024年11月に東京都水道局と下水道局の代表がニューヨーク市を訪問した際の様子

G-NETSワーキンググループの共同プロジェクトの一環で、2024年11月に東京都水道局と下水道局の職員がニューヨーク市を訪問。

よりコネクテッドな未来へ

アガールワラ氏は、東京都への訪問時に話題にのぼったという両都市の興味深い違いを指摘した。東京都では水道の使用量を各戸単位で計測しているのに対し、ニューヨークでは建物単位で計測する。ニューヨークでは住民が水道料金を個別に支払うことはほとんどなく、家賃や共益費に含まれているのが普通だ。850万の人口を抱える同市だが水道メーターは80万個で、東京都よりはるかに少ない。

ニューヨーク市が水道の自動検針システムに移行したのは10年前。メーターに無線送信機が付いており15分ごとに自動的にデータが送信される仕組みだ。詳細な水使用量の把握ができるほか、漏水を検知するプログラムを備えており、ビルの水使用量が急増した場合にアラートが発せられる。漏水補償プログラムにアカウントを登録しておけば、漏水を修理することで高額な請求が免除される仕組みもあり、迅速な報告や修理につながっている。

2024年11月の東京都水道局と下水道局による訪問を受け、貴重な対話と知見の共有ができたことは素晴らしかったとアガールワラ氏。

「ニューヨーク市とは違い、東京では各戸ごとに使用量を計測していることを学びました。顧客サービスの担当で請求業務を監督する当局の副局長は、このやり方にとても興味を抱いていましたね」「東京都の雨水管理のインフラはより先進的だと感じました。地下貯留施設や貯留の基準は私たちよりも野心的です。当市でも貯留基準を引き上げることを検討中です」

今後、他の国や都市との交流はますます重要になると、アガールワラ氏は指摘する。「気候変動によって、上下水道関係者は過去50年間とは全く異なる取り組みを求められています。他の都市がこの課題にどのように対処しているかを視察することは、学びを得る方法として極めて有効です」

ニューヨーク市環境保護局のロヒト・アガールワラ局長の写真

中央がニューヨーク市環境保護局のロヒト・アガールワラ局長。(写真:ニューヨーク市環境保護局)

ロヒト・アガールワラ

ニューヨーク市環境保護局局長

2022年より現職。市行政機関と民間企業を行き来し多彩なキャリアを積んできた。C40(世界大都市気候先導グループ)の理事会会長や、グーグルの親会社であるアルファベット傘下のサイドウォークス・ラボの創設メンバーなどを歴任。

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